エクストリュージョンの実際の症例
こんにちは
ハートフル総合歯科グループの野田裕亮と申します。
今回は引き続きエクストリュージョンの実際の症例についてお話いたします。
エクストリュージョンについての術式のお話は前回のブログをご参照ください。
( http://www.e82.jp/blog/2019/11/post-380-705473.html )
写真の患者さんは前歯の被せ物が土台ごと外れてしまったとのことでご来院されました。
聞けば10年以上前に入れた被せ物とのこと。薄い歯質になんとか金属の土台とセラミックの被せ物を入れてもらっていたようで、逆によくここまで持ってくれたと言わんばかりの状態でした。再度土台を立てたり被せ物を入れたりするほどの歯質が残っておらず、本来なら抜歯適応の状態でした。しかし幸い残った根っこにはむし歯や破折はみられないため、保存的治療として矯正的挺出術(エクストリュージョン)に移行しました。
前歯のエクストリュージョンだったため、簡易的ではありますが仮歯を使用し、なるべく目立たないような形の矯正装置を装着しました。
前歯は単根で素直な根っこであることが多く、エクストリュージョンの期間もさほど長くかかりません。この方の場合も1ヶ月半弱くらいで歯根の牽引が終わりました。(歯根の状態、引っ張る距離により期間に差があります)
その後歯肉整形を行い、仮歯を入れ、歯茎の整いを待って最終的な被せ物が入りました。
ここまでを聞くと「なんて万能な治療なんだろう」と思うかもしれませんが、エクストリュージョンを始め、フェルールを失った歯をなんとか残そうとすれば、根っこの歯質を再利用して被せ物を入れるということになります。つまり引っ張れば引っ張るほど歯根が短くなる。胴長短足の歯になるということです。そのためどこまででも引っ張れるわけではありません。エクストリュージョンをした結果歯に動揺が残ってしまう場合は隣の歯と連結して支えてもらうことも考えなければなりません。
先日受講したセミナーでもそのことは触れられており、
最終的な被せ物を連結にするか単独歯にするかは大まかな目安として
連結にするなら8mm
単冠で一つの被せ物として被せるなら10mm
必要とお話がありました。もちろん歯根の太さやかみ合わせの状態によっても少し差はあるにしても、全ての歯を引っ張れば元どおりということはありませんし、歯根が短くなることでのリスク(歯根破折やかみ合わせによる歯周組織に与える影響など)は無視できません。そうしたリスクについてもお話し、それでもという場合は治療計画の一案としてご提案することもあります。
一本でも多くの歯が保存できるように日々診療にあたっております。
「私のこの歯残せるのかしら?」「抜歯と言われたけど保存できないか?」
全ての歯が救えるわけではありませんが、抜く前に何か選択肢があるかもしれません。
是非ご相談ください。
野田裕亮