難治性瘻孔に挑む!MTAで封鎖せよ!! 根分岐部パーフォレーションと根尖破壊を修復 【MTAセメントの有用性と根管治療の成功への鍵】
こんにちは。
ハートフル総合歯科グループの歯科医師、本山 直樹と申します。
私は、歯内療法専門医の立場から根管治療における臨床症例を通して感じたことをブログに書い
ております。
42歳女性 左上6番に対して他院における根管治療後にsinus tract(瘻孔)が発生。
根管内にてマイクロスコープによる診査の結果、根分岐部にパーフォレーションと根尖破壊が確認
されました。特にMB(近心頬側)根管は根尖破壊が著しく、このような症例では、単純な根管充填
だけでは治癒が難しく、適切な封鎖と組織修復を促すアプローチが求められます。そこで、MTA
(Mineral Trioxide Aggregate)セメントを用いた根管内におけるリペア処置を行いました。
ところが、感染の原因が明白であるにもかかわらず、治療を終えるまでになかなか瘻孔の消失が認
められず、治癒までに時間を要した困難な症例でした…( ˘ω˘ )
今回のブログでは、臨床症例に対する考察として私の考えをまとめてみました。
<治療の流れとsinus tractの消失までに時間を要した背景>
根管内の洗浄・消毒を十分に行ったにもかかわらず、sinus tractの完全な消失には複数回の処置
を要しました。これらについて考察した結果、以下の要因が影響した可能性があります。
1.持続的な感染源の存在
・MB根管のパーフォレーション部および根尖破壊部は、感染が残存しやすい領域であり、通常の
根管洗浄のみでは除去が難しい。
・根尖周囲の慢性的な炎症が続いたため、治癒が遅延した可能性がある。
2.複雑な根管解剖とバイオフィルムの影響
・上顎第一大臼歯のMB根は高頻度でMB2が存在し、感染が取り切れないリスクがある。
・バイオフィルムの形成により、NaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)やEDTAによる洗浄では不十分
だった可能性がある。
3.パーフォレーション部の封鎖と治癒遅延
・パーフォレーションリペアにはMTAセメントが有効であるが、硬化・封鎖において完全に機能
するまで時間を要する。
・炎症の鎮静化が遅れたことで、sinus tractの閉鎖にも時間がかかったと考えられる。
<MTAセメントの特性と利点>
最終的に、MTAを用いた封鎖を行い、治癒へと導くことができました。
MTAセメントは1990年代に登場した生体親和性の高い材料で、特に根管の封鎖やパーフォレー
ションリペアにおいて優れた効果を発揮します。
主な利点として以下の点が挙げられます。
1.高い封鎖性
・水硬性があり、湿潤環境下でも硬化するため、根管内の微細な隙間までしっかりと封鎖可能で
ある。
・パーフォレーションリペアや根尖閉鎖に有効である。
2.生体親和性と抗菌作用
・高アルカリ性(pH約12)を示し、抗菌効果を持つ。
・歯周組織の修復や骨の再生を促す作用がある。
3.歯髄および根尖部の修復促進
・セメント質の再生を促し、生体内での適合性が高い。
・根尖破壊の症例において、治癒をサポートする材料として有用である。
これらの特性により、最終的に根管内の感染を封鎖し、sinus tractの消失が確認されました。
<難治性根尖病変における今後の課題>
今回のように、根管治療後の瘻孔が長引くケースでは、単に根管内の洗浄・消毒を繰り返すだけ
では不十分であり、感染の残存リスクを的確に評価し、根管解剖学的特徴を考慮した治療戦略が
求められます。
特に、
♦感染源が根管内のどこに残存しているかの精査
♦パーフォレーション部や根尖部の封鎖をいかに確実に行うか
♦バイオフィルムの影響を考慮し、より強力な殺菌アプローチを組み合わせるか
といった点を慎重に検討する必要があります。
<MTA治療の臨床的意義>
今回の症例のように、従来の根管治療では対応が難しいケースでも、MTAを活用することで治癒
の可能性が高まります。特に、パーフォレーションリペアや難治性根尖病変の治療において、
MTAは強力な選択肢となります。
本症例では、根管内の感染制御に時間を要したものの、MTAを適用することで最終的に瘻孔の消
失と治癒が得られました。感染コントロールと封鎖の最適化を追求し、より確実な成功率の高い
根管治療を提供できるように努めたいと思います。
『鞠躬尽力、死して後已まん』-諸葛孔明-
(きっきゅうじんりょくして、ししてのちやまん)
【ひたむきに己の全力を尽くし、死ぬまで止めない覚悟である】
この名言は謙虚さ、誠実さ、全力投球、後悔のない生き方、そして充実感を追求する精神を伝え
てくれる彼の卓越した哲学と人生観を示すものです。
「すべては患者様の笑顔のために」