根管治療を極める!! ~さらなる高みを目指して~ (24)
こんにちは。
東京都三鷹市ハートフル歯科の本山です。
藤本研修会エンドコース第5回を
受講してきました。
今回の2日間は、前回、前々回に行われた
実習形式ではなく、講義でした。
講義内容は、破折ファイル・穿孔リペア(MTA)、
歯髄の石灰化・外科的歯内療法・根未完成歯に
ついてでした。
全て非常に内容の濃い講義ばかりでしたが、
その中でも私が特に興味深かった、
“歯髄の石灰化”について
今回は書きたいと思います。
歯髄の石灰化は、
歯髄結石と根管の閉塞という形で現れます。
いくつかの文献データによると、
レントゲン的には、3.8%~26%ぐらいの頻度で
石灰化が認められたのですが、
病理学的にはその2~3倍以上の石灰化が
認められたそうです。
石灰化の素因としては、
加齢変化、摩耗、むし歯、医原性、外傷、歯周病、
矯正、全身疾患などがあります。
ここからは、臨床的なお話です。
歯髄の石灰化は、
歯髄結石と根管の閉塞という形で現れる
と書きましたが、今回は”根管の閉塞”について
焦点をあてながら、
実際の症例も交えてお話したいと思います。
<症例④>
30代 女性
主訴:歯肉が腫れている。
他院で、根管が見つからないと言われた。
レントゲン像を見てみると、
左下第一大臼歯の近心根と遠心根の根尖に
病変があるのが分かります。
両根とも途中から根管が全く見えない
状態なのが分かります。
下のレントゲン画像は、CTによる歯冠部から
歯根側、根尖に向かって輪切りにしている
レントゲン像です。
これは、歯根の上部です。
3つの黒い点があるのが確認できます。
3根管あるということです。
↓
歯根の1/3付近です。
先ほどまで確認できた3つの黒い点が
見えなくなっているのが確認できます。
石灰化して、根管の閉塞が起きているのが
分かります。
↓
果たして、レントゲンで見えないような根管で
穿通できないような場合、
この病気は中にいる細菌によって
起こっているものなので、
穿通しない限り治らないと考えませんか?
実は、そのようなことはありません。
穿通できなくても、病変は治る可能性があります。
逆に意地でも穿通させようとした結果、
パーフォレーション(穿孔)が起きる可能性があり、
そしてさらに病気を悪化させるなんてことも
十分考えられるのです。
結論としては、開いている根管のところまで
根管の清掃を行うことで、
細菌叢、つまり環境を変えることによって病原性を
発揮できない環境に変えてあげれば治るわけです。
どんな細菌でも、
いれば病気をつくるというわけでは
ありません。
病気をつくるための細菌の種類とか
細菌叢があるわけなので、
環境を変えて壊してあげれば良いというわけです。
ではどの程度、治るのでしょうか?
スウェーデンのある大学の論文に
このようなデータがあります。
10年間で治療された症例の中から
根管閉塞と判断された
51人64根管をみた。
根管閉塞の定義
①歯根長の1/3以上穿通されていない。
②根尖部から根管形成された部位までは、
X線学的に根管が見えない。
この研究では、これらを閉塞症例と定義づけた。
そして根管治療を行った結果の
成功・失敗については、
成功率は97%であった。
穿通できなくても、この成功率であった。
この結果は、当然の結果であると言えるでしょう。
なぜならば、このグループは元々病変のない
ものであったからです。
改めて感染させなければ、
引き続き成功するわけです。
問題なのは、病変があったグループですが、
病変があったグループとしては、62.5%が治った。
つまり、病変があっても穿通できなくても
これだけの成功率があった。
余計なことはしないで、
将来の垂直性歯根破折のリスクを
上げたりすることがないように
努めるべきなのです。
論文の考察の結果としては、
「術前に根尖部透過像があり、
なおかつネゴシエーション(穿通)ができない症例
でさえも6割の確率で治癒する可能性が
あるならば、可及的な根管形成と
洗浄を行った後に経過観察を行うことは
正当化されるであろう。
そして、明らかに予後不良と判断された場合には、
外科的なアプローチを行うべきである。
後ろ向きの研究で、サンプル数も十分とは
言えないが、
我々の臨床に示唆を与えるものである。」
というものでした。
石灰化ということで、解決できない問題が
潜んでいるということは
思わなくて良いと言えるわけです。
できる範囲でベストを尽くす!
当然、基本コンセプトは遵守します。
それだけでも治るし、治らなければ違う方法で
解決をしてあげれば良いということなのです。
今回の講義内容を聞いて、
自分の中で悩んでいたことが一つ解決できた
ような気がします。
“すべては患者様の笑顔のために”
今後とも、よろしくお願い致します。