こんにちは。
ハートフル総合歯科グループの歯科医師、本山 直樹と申します。
私は、歯内療法専門医の立場から根管治療における臨床症例を通して感じたことをブログに書い
ております。
今回のテーマは、「歯髄保護 Vital Pulp Treatment(VPT)」です。


先日、大阪で行われた第45回歯内療法学会学術大会に参加してきました٩( ‘ω’ )و
大阪の夏も暑く、また会場も満席で先生方の熱気に包まれていました…
今大会の焦点の一つが、国際的に新たなコンセンサスが構築されつつある歯髄保護でした。
歯髄保護とは、Vital Pulp Treatment(VPT)と呼ばれており、歯髄(歯の神経)を保存することは、その歯が長期的にかつ良好な予後をおくるために大きく関わっており非常に重要であると考えられています。
歯髄を保存する場合には、様々なケースが考えられますが、むし歯の状態が浅いのか、もしくは深い位置にあるのかによって治療法が異なります。
私たちが普段の臨床において、特に頭を悩ませるケースはレントゲン上よりむし歯が歯髄(歯の神経)近くまで進行している状態、つまり深在性う蝕と呼ばれる深い位置までむし歯が進行している状態になります。
なぜ、頭を悩ませられるのか…?
私は、断髄面にはマテリアルの選択をMTAとしていますが、歯髄の診断や術中の露髄面の取り扱いなど現状ではまだ明確な基準が設けられていないからです。゚(゚´Д`゚)゚。
つまり、様々な状況下において臨床判断、治療法の選択を迫られるからとも言えます。
露髄とは歯の中に存在する歯髄(歯の神経)が一部外界に露出した状態のことを言います。基本的には、そのような状態になってしまった場合は、細菌感染の問題があるため抜髄と呼ばれる神経を取る処置を行います。

細菌感染を考慮した場合に、露髄するシチュエーションには二つのことが考えられます。
一つ目は、外傷や偶発露髄のような感染の少ない新鮮な露髄が挙げられます。
二つ目は、深在性う蝕と呼ばれる深い位置まで進行したむし歯を除去した結果に起こる露髄が挙げられます。
これはむし歯が象牙質に侵入しているために、既に象牙細管を通した刺激が歯髄に達している可能性があります。
結局、術前における歯髄は既にいくらかの侵害を受けていることを考慮しなければなりません…
そして、露髄面においては露髄時に感染象牙質の削片など様々な感染源によって侵されて汚染されていると
考えなければならないからです。

ところが、近年では覆髄剤としてのケイ酸カルシウムセメント、MTAの有用性、また断髄と呼ば
れる治療法によって、より高い成功率で歯髄保存が可能になることが多くの研究で報告されていま
す、断髄とは歯の神経を上部において一部切断して、切断面にMTAを使用します。
MTAは歯髄を健康な状態で保つことができて、さらに細菌の侵入を防ぐ封鎖力に優れた材料です。
結果、断髄面より下部の歯根部歯髄を保存することができる治療となっております。
そして、私がこの1~2年で学会などで聴講してきたものの中には、これまで歯髄保存を行うこと
が困難であると考えられてきた、術前に不可逆性歯髄炎の症状が認められるものや根尖部透過像
を有するものに対して歯髄保存を行うような適応症の拡大が見られるようになってきました。
私たちは、日々の診療の中で深いむし歯に侵されてしまっている歯に非常に多く遭遇します。
その場合に抜髄するべきか、歯髄を保存するべきか、限られた時間の中で瞬間的に選択を迫られます。
今回の学会において、多くの先生方より断髄面の観察、特に歯髄の血管の状態に注目すべきであると教えていただきました。
歯髄を保存することは歯の長期寿命にも大きく関わってくると思います。
明日からの歯髄保存治療に対して、大きな学びを得ることができました。
ありがとうございました♪(´ε` )

最後に、症例を一つご覧下さい!
患者様は、左下7番において銀歯が脱離して来院されました。
銀歯が脱離した歯の中にはむし歯があります。
痛みなどの不快症状などはありませんでした。
レントゲン上よりむし歯も深く、神経に近い状態であることが認められます。
抜髄するべきか、神経保存を行うべきか…
恐らくむし歯を除去していくと、露髄する可能性が高いと予測して、事前に患者様には断髄治療の
説明をさせていただき、ご理解と納得を得られましたので、神経温存治療の準備を始めました。
また、術後に激しい仏痛など予後不良に陥ってしまった場合には抜髄治療に切り替える旨についても
同意をいただいております。


術前デンタルX線写真です。


露髄状態です。
神経の入り口が見えております。


MTAにて、部分断髄箇所を封鎖しました。


MTA充填後における術後デンタルX線写真です。
次回時において症状などの確認を行い、仏痛などの臨床症状も確認されませんでしたので、
セラミックによる1Day Treatmentにより修復処置を行いました。
現在も経過良好となっております。
※MTAを使用した部分断髄治療は、保険適用外となります。
詳細に関しては予約・来院後、ご相談されることをおすすめしております。

『鞠躬尽力、死して後已まん』-諸葛孔明-
(きっきゅうじんりょくして、ししてのちやまん)
【ひたむきに己の全力を尽くし、死ぬまで止めない覚悟である】
この名言は謙虚さ、誠実さ、全力投球、後悔のない生き方、そして充実感を追求する精神を伝え
てくれる彼の卓越した哲学と人生観を示すものです。
「すべては患者様の笑顔のために」

医療法人社団徹心会ハートフル歯科