なるべく歯を残すためにー歯冠長延長術についてー
こんにちは。
いつもありがとうございます。
ハートフル総合歯科グループの歯科医師 井上貴史です。
今回はなるべく歯を残すために、歯冠長延長術(クラウンレングスニング)について書きたいと思います。
歯肉縁下にカリエス、歯周病、破折などが生じている症例、そして審美的な目的から歯冠長の改善を目的にした症例などに対して、歯冠長延長術を適用することで、より多くの歯質を歯肉縁上に露出させることができます。結果として二次カリエス(二次むし歯)や歯周病などの改善や予防につながります。それは、歯を救うことになるのです。
1、矯正のテクニックを使用して、歯根を引っ張り出す。矯正的な挺出法
2、外科的に一旦抜いて固定しながら浮かせる様に留める外科的挺出法
3、歯肉を切り、骨形態を整える歯冠長延長術(クラウンレングスニング)
長期的に良好と思われる被せ物、修復治療などの基準として、
・歯冠-歯根比(歯の頭の部分と歯の根っこの長さの比率で理想は歯冠1:歯根2)、
・破折や歯周組織の状態、残っている歯質の量などがあります。
歯冠延長術に際しては特に歯冠-歯根比に配慮しなければいけません。
もっと簡単に説明すると、むし歯や根の治療(根管治療、歯内療法)や歯の破折などによって歯質の量が少なく歯の上に歯肉がある状態から、歯肉から少し歯根が見える状態にして接着剤が効く様にする治療法です。
歯冠の長さが短い状態の根っこに無理やり本歯を接着したとしましょう。外れやすいことに加えて、歯肉縁下(歯肉より下)深くにまで支台歯形成(被せ物を作るため歯の形を整える)を行うと、健全な歯と歯肉の結合(=付着)領域が失われることで、炎症が起きる可能性が高いです。そこの部分を赤く表示しています。
歯肉よりも下の位置に本歯が来るために、人造歯周ポケットが作られます。そこは、清掃困難になり、二次カリエス(二次むし歯)や歯周病を起こす原因となります。
赤い部分の歯肉と緑の本歯との間が、不衛生になることを図解しています。
30代女性 左上4番 :クラウン脱離歯肉を切り、骨形態を整える歯冠長延長術(クラウンレングスニング)の症例
歯肉を切り下げて臨床的歯冠(歯の頭の部分)部を延長させました。
歯肉に埋もれた歯根の環境改善を行います。なるべく抜歯をしないようにするための治療法です。
写真の様に歯肉に埋もれてしまった歯が治療対象です。
余分に見える歯肉を切る方法の欠点として隣在歯(隣の歯)の歯肉もなくなってしまい、隣の歯の根っこも露出させてしまう可能性があります。そこで、審美性が要求される上顎の前歯部や、被せ物のマージン(歯と歯肉の境界)近すぎる場合には、適応が難しいなど、歯冠長延長術の適用に際しては歯科医師の慎重な判断が重要です。
次回は実際の症例(URL)を報告したいと思います。
担当歯科医師の判断のもとに歯冠延長術を選択します。ご不明な点は担当の歯科医師にご相談ください。
今後ともよろしくお願いします。
井上貴史