こんにちは。
ハートフル総合歯科グループの歯科医師、本山 直樹と申します。
私は、歯内療法専門医の立場から根管治療における臨床症例を通して感じたことをブログに書いております。
今回は前回からのブログの続きです。
前回のブログはこちら ↓


本記事では、4名の先生方の素晴らしい講演の中で、私が特に興味深く感じた2名の先生の講演内容にフォーカスしてまとめたものをもって、今回の症例検討会の学びとさせていただきたいと思います。
一人目、松木 良介先生(まつき歯科医院)のご講演「歯髄再生治療における新たな臨床的視点」から、多くの示唆を得ました。その中でに印象的だったのは、“成功”と“失敗”という二元的な評価を超えた視点です。

■成功・失敗をどう定義するか?


松木先生は講演の中で、このように語られていました。
「歯髄反応があれば成功、なければ失敗というのは分かりやすい。しかし、反応がなくても患者さんにとって有益ならば、それを失敗とは言えないのではないか?」
歯髄再生治療は、神経の「再生」を目的としながらも、結果的に根尖病変の治癒や歯根破折の予防など、歯の長期保存につながる“副次的な恩恵”をもたらすことがあります。
たとえ反応が得られなくても、病変の治癒や歯質の強化が見られる場合、それは患者にとって“成功”と呼ぶべき結果なのかもしれません。


■ 症例から見える「現実的な課題」

松木先生が提示された症例13では、すでに前歯部で歯髄再生治療を受けた患者さんの、別の部位(左上5番)に新たなフィステルが出現。
根管充填の除去や石灰化像の形成、EPTやcoldテストの反応など、多くの細かな臨床判断を経て「経過観察を続ける価値のある症例」とされています。
このような経過の中で浮かび上がるのは、
• 根管充填材の除去の困難さ
• 石灰化組織の形成部位と臨床的意義
• 外科的アプローチとの併用判断
これらは、実際の臨床で直面する“リアルな問題”です。
松木先生は「ガッタパーチャ除去には溶解剤を使うな!」と指導を受けながらも、現実的には「使わざるを得ない場面がある」と述べられており、まさに理想と現実のはざまで模索する姿勢が感じられました。
そこで松木先生が最近の取り組みとして、乳歯がなく智歯の発育も不十分な自家不用歯のない若年患者症例に対して、将来の再治療を見据えて、敢えて根管充填を避けてコラーゲンのみを根管に満たして経過観察する方法を試みているとのことでした。
この手法は根未完成歯への応用可能性も考えられるものでした。
将来の歯髄再生治療が行えるまでの待機期間がある場合に、根管充填まで行うことは歯髄再生治療時には根管内のガッタパーチャと呼ばれる樹脂の充填材料を除去する必要があります。ところが、実際には根尖が湾曲している根管やイスムスと呼ばれる部分の除去しづらい箇所にまで入り込んでいる充填材料をキレイに除去することには、なかなか時間のかかる作業であり、臨床上よく遭遇する問題です。再治療の場合には、これらの問題を解決しなくてはなりません。
そこで、将来歯髄再生治療を行うことを考えているのであれば、敢えて根管充填をせずに、別の代替材料で対応することは、その煩わしい作業から解放されて非常に効率の良い治療であることは明白であると言えます٩( ‘ω’ )و

■ 再生のスピードと観察期間の妥当性

松木先生は自身の症例を分析して、下記のようにまとめていました。
「硬組織の変化は半年~1年で劇的に起きて、その後の1年は劇的な変化が強調されるような変化のみにとどまる安定化の時期に入る。」
つまり、1年経過で硬組織の変化を観察することが妥当であるという臨床的見解です。
一方で、軟組織の成熟にはさらに長い時間を要するとのこと。
ご自身の歯髄再生症例でも、3年を経て明確な歯髄反応を感じたと語られており、これは歯髄分化が「ゆっくりと成長する生体プロセス」であることを裏づけています。

■ 「失敗がない」治療観へ

講演の最後に松木先生はこのように結ばれました。
「歯髄における生活反応がなくても、病変が治っていれば成功なのではないか。歯髄の診断と硬組織の診断で反応もなく、病変も変化がなかったら失敗で、それ以外は全部成功であると考えると失敗はない。」
これは非常に印象的な言葉です。
歯髄再生治療はまだ発展途上であり、評価基準も確立されていません。
しかし、その中で“患者にとって利益がある結果”を成功とする柔軟な視点こそ、再生医療の本質に近いのではないでしょうか。

■ おわりに

歯髄再生治療の未来は、単なる「神経の蘇生」ではなく、歯そのものの再生的治癒力を引き出すことにあります。
松木先生のように、臨床の中で現実と理想をすり合わせながら、一歩ずつ前進していく姿勢は、多くの歯科医に勇気を与えるものであると感じました。
今回のような症例検討会に参加することで、注意すべきポイントや他の先生方も悩まれていること、症例における術後経過など非常に参考になる報告に関して多く聞くことができました。これらは、とても学びの深い充実した時間になりました♪
ありがとうございました(*’ω’*)

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本山 直樹

医療法人社団徹心会ハートフル歯科